あの日から僕は父様と話さなかった
…ううん、話さなかったんじゃない。話せなかったんだ
もちろん、ちゃんと父様には「ごめんなさい」は言ったよ
でも、それからおかしいんだ
父様と話そうとすると舌が前のはのうらにひっついちゃう
父様は何も言わないでだまって頭をなでてくれたけど
僕は僕がなさけなくて
どんどん父様と顔をあわせるのも何だか気まずくなっちゃって
僕は父様と顔をあわせるのもこわくなってしまった
父様が剣のおけいこにさそってくれたときも、僕は行けなかった
いつもならうれしいことなのに…
いつのまにか父様がいるときは顔を上げなくなって
ずっとうつむいたままになった
母様も心配してくれたけど、どうしようもないことだった
そうして一週間たって
二週間、三週間とたっていくうちに
僕はどんどん閉じこもって行った
いつの間にか僕はこわれちゃったんだと思う
あんなに大好きだった父様なのに
今は顔を見るのもこわいなんて…
それから今日の話
今日は朝からザアザア雨が降っていた
きのうの夜からふりだしたのよって母様が言ってる
僕はなんだかお空が泣いてる気がしたんだ
僕と同じように
何でこんなになっちゃったんだろう?
どうしてこんなふうになちゃったんだろう?
同じ考えばっかりぐるぐる頭と心の中でまっくろいうずをまいて
僕も何だかなきたくなってしまった
そんなとき、母様が僕に言った
「ねぇ、シュン? 父様を迎えに行ってくれないかしら?」
「え?」
言われたことがわからなくて聞き返すと、「父様をお城まで迎えに行ってくれる?」と母様はもう一回言った
僕はビックリして頭を横にふった
何てとんでもないことをいうんだ! って言うように
母様はそんな僕を見つめながら話し続ける
「だって、父様は昨日のお昼からお仕事でしょう?昨日は雨なんて降ってなかったから、傘をもっていかなかったのよ。
母様は夜ご飯の準備があるし…。ね? シュンにしか頼めないの。それとも父様が濡れて帰って風邪をひいてもいいの?
…父様のこと、嫌いになっちゃったの?」
僕は言った
「父様のことはきらいじゃない。…でも…こわいんだ。」
僕のその言葉を聞くと母様はビックリした顔をした。でも、いつもの優しい顔になって僕に言った
「あなたが怖いのは『父様』じゃなくて、シュンの気持ちの中に原因があるんじゃないかしら?」
僕ははっとして母様を見る。母様は続けた
「貴方が怖がってるもの。それは母様にはわからないけど、答えは貴方の中にあるんだと思うの。
だから…ね?行って確かめて来なさい。本当に怖いのは何なのか。」
母様はそう言うと「じゃあ、母様は買い物に行ってくるわね」と言って出て行ってしまった
とりのこされた僕はとっても変な気持ちになった
父様じゃないこわい何かのしょうたいをつかみたかったけれど、何だかうまくいかなくって
会いに行こうと思った
もしかしたら父様が答えを知っているようなきがして
げんかんに行って長ぐつをはくと、雨はザアザアからしとしとになっていた
僕は自分のかさを持った
…あれ?
僕のかさ、こんなに重かったっけ?
ふしぎに思ってかさをひらいたとき
コンって音がなった
続いてコロコロって何かが転がるような音
そして僕の目にとんでもないものが飛び込んだ
かさのうちがわのしんにはこんぺいとうやアメ、おせんべいやふがし、それに竹とんぼまでつるしてあった
まるで僕のかさのうちがわだけにおかしの雨がふるみたいに
僕はビックリしてそのおかしたちを見つめていた
すると、父様の字が見えて僕はそれを読んだ
『ばれんたいんでー有難う。ちよこれいとは食べなかったがミナとシュンの気持ちは受け取ったよ。拙者も同じように思っている』
その時、僕の頭と心のくろいぐるぐるはどっかにいっちゃって
キラキラした光が僕の頭と心にあふれた
僕はわかった
僕がこわかったのは父様なんかじゃない
父様に気持ちが伝わらないことがこわかったんだ
父様が僕のことをキライになられるのがこわかったんだ
でも…でもね、そんなことないんだよ
父様は僕達のことを大好きでいてくれるし
僕達も父様が大好きなんだ
どんなことがあっても…
僕は父様のかさを持つと勢いよく外に飛び出した
きっと父様は待っている
待っていてくれるって知ってる
だから僕は迎えに行くんだってことも知ってる
だって、もうこわくない
こんなにワクワクしてるんだ
『ちよこれいと』をいつ渡そうって思ってたときみたいに
お話したいことだってたくさんある
そうだ、こんどのお休みに剣のけいこをつけてもらおう!
一緒につりにいくのもいいな
そんなことを考えながら僕はお城までのみちを走り続けた
父様のかさと、うちがわにおかしのあめがふる僕のかさを持って
読んで下さり、ありがとうございました!
今日、貴方にも甘い雨が降りますように…
嬉しいのはお菓子じゃなくって、甘いお菓子の中に詰め込んだ甘くて優しい気持ち。
カイエンはミナにも同じことをやって、「じろじろ見られて恥ずかしかった!」と怒られるといい(笑)