「弟子にして下さい!」

 

そういった若者の目には涙と強い光が宿っていた

 

 

 

 

 

「もうへばっているのか?」

 

倒れこんだ自分へと兄弟子のバルガスから笑いながらかけられる言葉に

ぜぃぜぃと肩で息をしながらマッシュは答えようとしたが、声にはならなかった

 

「無理をするからだ」

 

バルガスはまだまだ余裕だと言わんばかりに片手で大きな岩を握りつぶしてから弟弟子を起こそうと手を貸した

その瞬間

 

「ならん!」

 

鋭く飛ぶ声に驚いた二人が崖の上を見上げるとそこには二人の師が居た

 

 

 

 

 

世界的に有名な格闘家であるダンカンにマッシュが本格的に弟子入りしたのはほんの一週間前の事

もっとも、幼い頃からマッシュはダンカンを知っていたのだが

それは、体の弱かった息子に少しでも体を強くして欲しいというフィガロ王の思いから家庭教師として雇われたときで

その頃のダンカンは自分を気遣ってくれる『優しい先生』だった

しかし今は・・・

 

 

 

 

「マッシュ、立て!」

 

又、ダンカンの鋭い声が飛ぶ

 

「こんな修行で倒れこむ様な、ひ弱な者はワシの弟子にはいらん!」

「親父!!」

 

ダンカンの息子でもあるバルガスが非難の声を上げる

 

「こいつはまだ修行を始めたばか・・・」

「だから、何だ?」

 

バルガスの言葉を遮りダンカンは続ける

 

「厳しい修行になる事は判っていたはず」

 

静かに怒っているような声が谷に響く

 

「それなのに、城に居たときのようにぬくぬくと過ごさせて貰えるとでも?

城でのときのように手取り足取り教えて貰えるとでも?

弟子入りした際に今までの考えを捨てよと言ったはずだ!

それが出来ないのなら・・・今すぐ城に帰れ!」

 

 

確かに、修行と云うものは甘いものでは無い

一切の邪念を断ち心身共に鍛え上げる事、そして自分の限界との戦い

それに負けたとき、ある者は逃げ出し、ある者は死んでいく

 

(帰ったほうが、コイツの為かもな・・・)

 

そう思ったバルガスがマッシュに目を移すと

 

「・・・か・・帰・・・りま・・・せ・・・ん

・・・絶・・・対・・・帰り・・・ま・・・せん!・・・俺・・・は・・・・・」

 

よろよろと立ち上がりながら途切れ途切れにそう言ったかと思うとマッシュは崩れ落ちた

 

 

ダンカンがヒラリと崖を飛び降りたかと思うと気を失い倒れたマッシュを担ぎ

バルガスに「お前は修行の続きを」と言い終えるや否や崖を飛ぶように上っていった

 

 

 

 

 

「・・・・・ぅん・・・?」

「気がついたかい?」

 

気づくとマッシュはベッドの上に居た

女性の声に周りを見回すとダンカンの妻と目が合った

 

「あ・・・!?」

 

起き上がろうとするが体に力が入らない

 

「あの人も無茶をさせたね・・・もう少し休んだ方がいい」

心配そうに笑うその顔に兄弟子の顔と言葉が重なる

 

『もうへばっているのか?』

『無理をするからだ』

 

言いようの無い怒りが湧き起こる

誰でもなく・・・自分に対して

食いしばった唇に血が滲む

マッシュの自分に対しての怒りを感じ、ダンカンの妻はそっと部屋を後にした

 

 

 

 

(寝ているわけにはいかない!)

 

休んだほうがいいと言って引き止めるダンカンの妻に大丈夫ですと答え

疲れきっている体を引きずりながら外に出る

修行場に向かおうと歩くマッシュの前にダンカンが現れ「着いて来い」と声を掛けた

 

 

 

 

 

 

 

上手く歩けないマッシュを尻目にダンカンは山道をスタスタと進んでいく

いつの間にか日が傾き、空は茜色をしている

ふと、先をいくダンカンが見晴らしのいい丘で立ち止まる

 

「ここからだとフィガロ城が見える」

 

マッシュを振り返り言ったダンカンの言葉にマッシュは驚いて足を止めた

 

 

 

「何故こんなところに連れてきたのか・・・か?」

そうマッシュの心を見透かした様に言うとダンカンはフィガロ城へと目を移す

「お前に聞きたい事がある」

 

 

 

 

 

いつの間にか真上にあった日が傾き全てを茜色に染めながら山へと沈んでいく

茜色に染まった砂漠の中にある城を見つめたままダンカンが聞いた

 

「帰らない・・・といったな?」

先ほどの自分の言葉だと分かり、マッシュは頷く

 

「俺はまだ強くなっていません」

背を向けたままでも感じる視線

 

「そんなに強くなりたいか?」

「強くならなければいけないんです」

「・・・強くならなければいけない・・・?」

「大切な人を守れず傷つけ、己の不甲斐無さに泣くのは・・・・・もう嫌だから!」

 

その言葉にゆっくりと振り向く

ぶつかる視線

 

「・・・光はまだ消えていないようだな・・・」

 

そう呟いて、又背を向けるとマッシュに静かに言葉をかける

 

「今日は帰って休むように。

それと・・・明日からは、もっと厳しい修行になる事、覚悟しておけ」

「はい!」

 

背中から聞こえてくる威勢の良い返事ダンカンは微かに頷いた

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

そう言って元来た道を戻っていると

「大丈夫か?」と木の上から心配そうな声が降ってくる

 

「大丈夫だ。ありがとう、バルガス」

 

声の主の名前を呼ぶと木が揺れて、声の主が目の前に降り立つ

 

「心配なんかしてない・・・死なれちゃ俺の寝覚めが悪くなるからな」

 

ぶっきらぼうにそう言うと同時に軽く小突かれるとマッシュはへなへなと座り込んだ

 

「おい!?」

「は・・・はは・・・腰が抜けた・・・」

「しかたねぇな・・・」

 

バルガスが苦笑しながらマッシュを背に負う

 

「あ!親父には・・・」

 

気がついた様に慌ててバルガスが言うと

 

『内緒にしろよな!』

 

重なる声

 

堪え切れずに二人は笑いあった

 

 

 

 

 

ダンカンが目を閉じ呼吸をすると

冷たい空気が肺を満たす

もう太陽は姿を隠し、辺りは静まり返っている

 

「若き獅子よ、気高くあれ

その誇りが汚された時、死ぬときと心得よ

若き獅子よ、優しくあれ

その優しさが失われた時、全てを失うと心得よ

若き獅子よ、心強くあれ

その心強さがある限り、大切なものを守れるだろう

若き獅子よ、人の思いを知れ

その時、真の強さを手に入れるだろう・・・か」

 

奥義継承の際、自分の師から言われた言葉を思い出すとゆっくりと目を開く

そして空を見上げると、無数の星と煌煌と輝く満月に目を細める

ふと、満月に先ほどのマッシュの瞳が重なる

優しさを湛え、強い意志を持った瞳

 

(真の強さとは他人を思いやる優しい心から生まれるもの

マッシュはきっと強くなる・・・あの瞳はお前にそっくりだ)

 

遠くに見えるフィガロ城に目を移し今は亡き友に語りかける

 

「吾が友よ

お前は本当に良い息子に恵まれたようだ

お前の息子は、自分の運命から逃げる事は無い

どんなに辛い事があったとしても、正面から立ち向かっていくだろう

そして大切なモノを守り続けるだろう

どれだけ自分が傷ついたとしても、どんな強敵にでも立ち向かっていくだろう

お前の息子はワシが責任を持って預かる

本当の家族のように愛し、慈しみ、怒り、過ごす事を約束しよう」

 

 

そう言って微笑むとダンカンは目を閉じ、今は亡き友の冥福を祈った

 

 

 

 

 

 

 

某サイト様から教えて貰ったハーコート家族とマッシュの良さにハマリ、書いたのがこのSSです

本当は、『家族』を感じられる物にしようと思っていたのですが、師弟関係のほうが強く出てしまった・・・

ダンカンの厳しさの中にもマッシュに強くなって欲しいという願いが込められている事を感じて下されば幸いです

ちなみに、このSSではフィガロ王とダンカンは友達だった事になっています

題にある、『獅子』はマッシュの星座から取りました

ダンカンの妻が出てくるところが一番の苦労所(名前がわからないうえ、性格が適当・・・)

コルツ山からフィガロは見えないと思われますが、スルーでお願いします