「あ!瑛君、タッセオグラフィーって知ってる?」

店を閉めて店内の掃除をしていると思い出したように蒼凪が言った

「知らない。興味も無い。」

モップで床を拭きながら言うと蒼凪はふぅとため息をついた

 

「だめだなぁ、瑛君、そんなんじゃ厳しい喫茶店業界やっていけないよ?」

「うるさい」

 

チョップが決まる。痛いと文句を言う蒼凪にさっさとやれ!と目で指示をし、掃除を再開する

 

(たっせおぐらふぃー?何だそれ。喫茶店やるのに関係あるのかよ?)

 

気にならないか、と言われると気にならない・・・ようなそうでもないような

蒼凪を横目でチラッと見ると瑛君の暴力男とか、多重人格とか何とかぶつぶつ言いながらテーブルを拭いていた

聞くのは止めておこう。

どうせ聞いたところで「教えて欲しかったら、三回回ってワンって鳴け!」・・・とか、言われそうだ。うん。

 

 

 

「その辺で、一息ついたらどうかな?」

声が聞こた方をみると、帳簿を書き終えたらしいじいちゃんが店舗に入ってくる

 

「マスター!マスターは知ってますよね?タッセオグラフィー!!」

蒼凪が訴えるような目をしてじいちゃんに聞く

 

(知るわけ無いだろ!)

「あぁ!知っていますよ。」

心の中で突っ込んだ声とじいちゃんの声が重なる

 

 

 

ポカンとする俺に蒼凪がニヤリとした目線を送ってきた

もう一度チョップを決めてやろうかと手を振り上げると蒼凪はサッとじいちゃんの後ろに逃げ込んだ・・・この、卑怯者め!

 

「まぁまぁ、落ち着きなさい・・・じゃあ、今からやってみましょうか?」

じいちゃんはそう言うと、コーヒーを入れ始めた

 

 

 

コーヒーの良い香りが店内を満たす

じいちゃんは俺たちにカウンターに座るよう促すと、白磁のカップに入れられたコーヒーを目の前に置いた

 

「コーヒーとその・・・たっせお何とかって関係あるの?」

「タッセオグラフィー!!」

すかさず蒼凪が訂正する

「はいはい。タッセオグラフィーね。で、それって何?」

「えっと・・・たしか・・・」

考え込むところを見ると、こいつ、本かなんかでちらっと見ただけの情報をあんなに偉そうに言ってたわけだな

ジロッと蒼凪を睨むとまだ考え込んでいた

 

(それともさっきのチョップで飛んだか?)

 

永遠に考えていそうな蒼凪を見てじいちゃんが助け舟を出した

 

「タッセオグラフィーというのは、別名茶葉占いとも言って、お茶やコーヒーを飲んだ後、カップの底に出来る模様を読んでする占いの一種ですよ」

「そうそう!よく知ってますねマスター!」

「忘れてたくせによく言うよな。どうせ雑誌かなんかで見ただけだろ?」

「うぅ!何故それを!!・・・もしかして、エスパー?」

「・・・やっぱり。お前の事は全てお見通しだ!」

 

見事に脳天に決まるチョップ。はぁ、すっきり!!

一方、蒼凪は恨めしそうな目で俺を見ている

 

「これ!・・・すみませんね、偲麗夏さん。さぁ、冷める前にどうぞ」

 

じいちゃんの一言で喧嘩は中断、湯気を上げるコーヒーに手を伸ばすと強いコーヒーの良い香りが鼻腔を擽った

「飲み干さずに、ほんの少し残してカップを置いて、少し待ってくださいね」

言われたとおり、ほんの少し残してカップを置く

 

(こんな事で何がわかるっていうんだ?)

 

しばしの沈黙

 

 

「そろそろいいかな?さぁ、何の形に見えますか?」

じいちゃんの言葉で全員がそれぞれのカップを覗き込んだ

 

「僕は四角・・・ですね?」

「私は・・・・・・葉っぱ?」

「俺も葉っぱに見える。・・・で、どんな意味?」

 

意地悪く蒼凪を見ると、平然と忘れちゃったの一言

・・・こいつ、どうしてもチョップが必要らしい

 

「たしか、葉は『希望』です。そして、僕の四角は『保護者』を表しているはずです・・・これ以上は僕も覚えていません」

 

聞こえてきた何とも曖昧な答えに拍子抜けする

 

「よく知ってますね!スゴイです!!」

 

何故か感激している蒼凪に思いっきり優しい声で言ってやる

 

「蒼凪、こんなことを知って、どうやって喫茶店業界を勝ち抜いていけるのかなぁ?」

 

ギクッと体を強張らせるが、気づいたところでもう遅い!

本日、掃除を始めてから数えて3回目のチョップが炸裂!蒼凪は机に沈んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で、あんな事知ってたの?」

「それは・・・」

 

言いかけた途端に元気な声が聞こえてくる

 

「てーるーくーん!準備出来たよー?」

「わかった、待ってろ!すぐ行く!」

 

大声で返事をしてから後で教えてと言い残し、瑛は偲麗夏さんを送るため彼女の所へ向かう

 

「・・・もう少し素直になりなさい」

 

瑛の背中にそう呟くと、二人を見送るために窓から顔を出す

(お前のおばあちゃんも彼女と同じように聞いてきたんですよ。)

手を振る二人に笑顔で応えながらさっきの瑛の質問に心の中で答えた

 

 

窓を閉め、カウンターに戻る

片付けようとカップを手に取る

カップ同士が触れ合った瞬間、カップの底に溜まった形が変わり、同じ形になった

 

一つずつでは、決して見えなかったもの

一人だけでは、決してなれないもの

 

恋人を表すハートの形に

 

(おやおや・・・こちらは素直なようだ)

若い二人のこれからを思って、僕は笑った

 

 

 

 

 

瑛と言えばコーヒー。コーヒーで面白い話・・・豆か?等と思っているとたまたま読んでいた推理小説にタッセオグラフィーの事が書いてありました

これは面白い!と思い、書いたのが、このssだったりします

最後の佐伯総一郎さんの独白の所で瑛のおばあちゃんの事が出ていますが、個人的な妄想です。

昔だから、タッセオグラフィーなんて知らないんじゃ・・・とか思いましたが、自分は人魚って言うくらいだから、と思っていい事にしておいてください。

タッセオグラフィーについては説明できないので、興味のある方はタッセオグラフィー又はお茶の葉占いで検索または占いの本で捜してみて下さい(オイ!)

やり方も、茶器の指定や、コーヒー以外の飲み物でも良いなど、色々あるようです

ちなみにこのSSでは、エスプレッソで占った事にしています