幸せという名の花を寄せ集めて作る花束
数ヶ月前、これを頼んだカップルは世界で一番幸せそうな顔をしていた
写真と注文書を見ながら花を選び、どういう形にしようかと考えていると
「先輩、花束のご注文ですか?」
後ろから聞こえてきた声に振り返る
「カラーとジャスミン、それとクローバーを使用したブーケを作ってくれって頼まれたんだけどな・・・」
答えながら後ろを振り返るとニコニコしている偲麗夏が立っていた
「クローバーでブーケですか?」
不思議そうに、注文書を覗き込むと、途端に目が輝きだす
「先輩!これ・・・ウェディングブーケの注文じゃないですか!」
素敵ですね!とはしゃぎだすところを見ると
女の子ってヤツは例外なく『花嫁』に憧れているらしい・・・可愛いもんだ
はしゃいでいる偲麗夏からまだ束ねられていない花に目を移す
「だけど、どういう形にするか、まだ決めてねぇんだよなー・・・花嫁さんのイメージで、その花使ってその金額ならティアドロッ・・・」
「ティアドロップは止めたほうが良いと思います」
言いかけた途端、鋭い偲麗夏の声が重なる
「おぉっと!?どした?急に・・・」
ビックリして偲麗夏を見ると注文書に付けられている写真を見ていたらしい
不思議に思って写真を見ると、そこにはウェディングドレスに身を包んだ女性が笑顔で立っていた
「この写真に何かあるのか?あ!この人、呪われてます!とか言い出すんじゃねぇぞ?晴れの・・・」
説教モードに入りかけたオレに小さく呟く声が聞こえた
「だって、人魚だから・・・」
「はぁ?」
さっきまで笑っていた顔が泣き出しそうな顔になっている
(冗談じゃねぇみてえだな・・・)
もう一度写真に目を落とす
偲麗夏の視線を追うとどうやらドレスを見ている様だ
(『マーメイドドレス』ってやつだったよな?)
たしか、最も女性が美しく見えるらしいと誰かに聞いた気がする
膝の辺りまでピッタリと体に沿っていたラインが、裾に向かって大きく広がるドレス
(マーメイドって人魚の事だったよな?)
ドレスの名前に考えを巡らせたとき、オレはふと思い出した
・・・人魚姫のお話を・・・
人魚の姫は人間の王子様に恋をする
そして、自分の声と引き換えに人になった
だけど、それは叶わぬ恋で
人魚は切なく、悲しい恋に涙を流す
そして、その恋が終わりを告げる時
姫は泡になった・・・
しんとした空気が辺りを包む
「あ!・・・ご・・・ごめんなさい!!私・・・」
ハッとして偲麗夏を見ると気まずそうな顔でオレを覗き込んでいる
その頭をくしゃくしゃと撫でてから背の高い花瓶と針金を持って来ようと立ち上がると有沢の声が聞こえた
「蒼凪さん!何してるの?」
「あっ!すみません!今、行きます!」
慌てて店へと出て行く気配を感じながら、俺は花束を作り始めた
「つ・・・疲れた・・・」
出来上がった花束を見る
我ながら上出来だ
「先輩、出来ましたか?」
スッと差し出された缶コーヒーをサンキュと言って受け取り、声の主に見やすいように体を退かす
「見ろ!オレの自信作!!」
「・・・これ・・・」
オレを見る偲麗夏の目が大きく広がる
「何処かのお姫様が泣きそうだったからな」
おどけてそう言うと急に腹部への嬉しい圧迫感
(・・・ヤバイ・・・)
体に押し付けられる暖かくも柔らかい感触に理性の糸がぶちぶちと切れていく
そんな俺の心など知るはずも無い偲麗夏は俺に抱きついたまま、顔を見上げて天使の微笑で
「先輩、大好き!」
抱きしめそうになる腕
イカン!と切れた糸をしっかりと繋ぎ直す
(こいつは後輩だ!こいつは後輩だ!こいつは後輩だ!)
有沢が心身ともに苦しいオレの状態に気づいて笑いながら止めに入るまで
オレはひたすら『こいつは後輩だ!』と唱え続けた
次の日、一緒に行きたいと言った偲麗夏を連れて、花束の配達に行った
幸せそうに笑いながら話続ける偲麗夏を乗せて、帰りの道を車で走る
「花嫁さん、とっても嬉しそうでしたね!」
「それに、とっても綺麗でしたね?お姫様みたいでした!」
「花婿さんは、元モデルらしいですよ?」
「お似合いのお二人でしたね!」
「・・・私もお嫁さんになりたいなぁ・・・」
最後の一言に驚いて助手席を見たため危うく赤信号に突っ込みそうになる
「もう!先輩!!安全運転してくださいよ!」
急ブレーキをかけたことに対して非難の声
(お前が変な事言うからだろ!)
心の中で突っ込みながら、偲麗夏の花嫁姿を想像してしまった
純白のドレスにヴェール、そして花束
今日の花嫁に負けない位の幸せそうな笑顔
「
その時はオレが・・・」
「先輩、信号変わりましたよ?」
言いかけた途端、掛けられた声と後ろから鳴らされるクラクションに慌てて妄想を停止、反対に車を発信させると
「そういえば、今月、大丈夫ですか?」
と、思い出したくない事を言われてしまった
そう。あの花束は予算を超えていたのだ
(給料から諭吉が何枚か消えたなこりゃ・・・)
花嫁もそれに気がついたらしく、こんな素敵な花束を作ってくれたのだから、不足分を払う。と言ってくれたのだが・・・
(受け取れねぇだろ?)
・・・だって、あの花束は、花嫁さんのためじゃなく、オレの愛しいお姫様の為に作ったんだから・・・
先輩はアンネリーでバイトしないと出会えないので、花束を題材にしました
花と結婚式はまだ書きたいネタがあります
後、先輩に言わせたかったけど、消えた台詞達があるので忘れないうちに書いておきます
「お前のブーケを作るときには、ウツボカズラとハエ取り草をいれてやろう!」
「あのドレス・・・お前にも似合うと思うぜ?」
「ここにも、お姫様はいるけどな」等など
事故ちゅーの選択で気障とあるだけに気障な台詞をさらっと言ってくれる先輩が好きです!
ちなみに先輩が作ったのはキャスケードブーケと言ってティアドロップより大き目の花束です
(形を整えて針金とのりでくっつけて作ると教えて頂きました。長持ちしませんとも言われました)
cascade(小さな滝)とteardrop(涙の雫)で比較すれば何となく金額の差が判ります・・・よね?
諭吉が何枚・・・とまではいかないものもありますが、そこは先輩の愛の大きさという事で。
花束は、とっても素敵なので、花屋さんのホームページ等で写真を見る事をオススメします
他にも、ボールブーケとか沢山あって、本当に見ていて飽きませんでした!