とっても楽しみだね
ねぇ、きっとおどろいてくれるよね?
きっとよろこんでくれるよね?
一月(ひとつき)と一週間前の話
母様は父様がお仕事に出かける前からそわそわしてた
どのくらいそわそわしてたかって?
そうだなぁ…
朝ごはんのおみそ汁におとうふじゃなくてはんぺんが入ってたり
食後のお茶はお茶の葉っぱとお湯を湯のみに入れただけだったり(ふつうは茶こしでちゃんと葉っぱを分けるんだよ)
そんな具合だった
父様は「熱でもあるのか?」って心配そうに聞いたけど、母様は「なんでもないわ」って笑ってた
父様がお仕事に出かけてから母様は僕に言ったんだ「急いで出かけましょう」って
僕はまだお茶を飲み込んでも居ないうちに、母様に引きずられる様にして家を飛び出した
「母様、後片付けがまだおわってないよ? それにおせんたくも!」
そう言ったけど母様には聞こえてなかったみたい
しばらくすると、母様はあるお店の前で立ち止まった
僕はそのお店にみおぼえがあった
だってお使いやおこづかいを貯めてよく行くおかし屋さんだったから
でも、いつもとは様子がぜんぜんちがうんだ
みわたす限りの人、人、人! それもみんな女の人ばっかり!!
ぼうぜんとする僕に向かって母様は「ここで待っててね」ってひとことだけ言うと、女の人だらけのお店に突っ込んで行ったんだ
僕はもちろん待ってた。 だってあの中に入ろうとも思わなかったし、入ったらペシャンコにされちゃうのもわかってたからね
しばらくするとキレイな紙袋を持った母様が出てきた…あの時の母様はひどいかっこうだったよ
着物はヨレヨレ、帯はボロボロ、かみの毛はグチャグチャ
ヨレヨレのボロボロのグチャグチャ
でも、すごくうれしそうにニコニコ笑ってた
そして僕の手を取って「帰りましょう」って言ったんだ
僕は何が何だか分からなかったけど、とりあえず母様の言う通りにした
帰り道中母様の顔は笑いっぱなしで、今にも歌いだしそうなくらいだった
どうしてそんなに笑ってるのか知りたくて、僕は母様に聞いた
「何がそんなにうれしいの? どうしてずっと笑ってるの?」
母様はもっと笑顔になってふふふと笑うと「あのね…」と話し出した
母様はうれしくてこうふんしてたせいで要点が分からない上に、父様とのノロケもいつも以上に多かったから僕がまとめたところによると
・異国には『ばれんたいんでー』とか言う日があって、その日には女の人が好きな男の人に気持ちを伝えてもいい日らしい
・その『ばれんたいんでー』には好きって気持ちと一緒に『ちよこれいと』って言うおかしも一緒にあげるらしい
・母様は『ばれんたいんでー』のことを昔読んだ本で知っていたけれど、『ちよこれいと』が無いからざんねんに思っていた
・『ちよこれいと』は異国のおかし。 とっても甘くて、今まで食べたどんなおかしよりおいしいくて、ちょっとこうか
(いつも僕の食べているおせんべいが5個買える位)
・おととい母様がおかし屋さんの前を通ったら「『ばれんたいんでー』に愛する気持ちと一緒に『ちよこれいと』を! あさってにゅうか!!」と書かれた立て札(『ばれんたいんでー』についても詳しくかかれていたらしい)が置いてあった
と、言う事らしい
おかし屋さんのさくりゃくって気もしなくはないけど、母様がニコニコ笑ってるし、僕も『ちよこれいと』の味にはきょうみがあったから口には出さなかった
でも、一つだけふしぎに思って僕は母様に聞いた
「母様はいっつも父様に大好きとか愛してるとか言ってるのに、それだけじゃいけないの?」
「あなたにも好きな人が出来ればわかるわよ」
「質問の答えになってないよ」って僕が言ったら母様は「そんなナマイキな言葉、どこで覚えたの?」って笑った
帰ってから買ってきた『ちよこれいと』を見せてもらった
きれいな紙袋から出されたのはキラキラ光るもも色のリボンがかかった青い箱
「中身は父様が見る時に一緒に…ね?」
母様はイタズラっぽく笑うと元通りに紙袋にいれてとだなの一番奥にしまいこんだ
父様に渡すのが楽しみだってずっと笑ってた
そんな母様はいつもより何倍もキレイで(いつもキレイだけど、その日はトクベツ!)
僕もいつの間にか母様と一緒に笑っていたんだ