父様がいけないよ
母様が大変な思いをしてせっかく買ってきたのに
母様の気持ちがいっぱい詰まってたのに
僕も楽しみにしてたのに…
一ヶ月前の話
その日は父上がお休みだった
剣のおけいこをつけてもらったり、一緒に本を読んだり、お話したり…
でも一番僕と母様が楽しみだったのは
そう! 『ちよこれいと』!!
二人でこっそり話し合って、夜ごはんが終わったらあげようってことになってた
「父様、きっとビックリするね!」って言ったら、母様がマジメな顔で「しー!」って言ったりして
二人でこそこそ笑いあった
とっても楽しい一日になる―はずだったんだ
あんなことを父様がするまでは…
夜ごはんの準備をするために母様は買い物に出かけた
もちろん僕は一緒についていった
だって家にいたら父様にしゃべってしまいそうだったから
父様も「一緒に行こうか?」って言ったんだけど、母様が「お疲れでしょうから」って断ってた
父様がっかりしてたけど、しかたないよね?
だって母様もしゃべってしまいそうだったんだから!
「夜ごはんは何にしましょうか?」
「お魚を焼いたらいいんじゃないかな?しょっぱいものを食べたらきっともっとおいしく感じるよ!」
話をすれば必ず『ちよこれいと』の話が出てきた
母様に「シュンも楽しみなのね?」って聞かれたけど、そうじゃないよって言った
楽しみなのは父様のビックリした顔と、母様の笑顔が楽しみだったから
僕達は笑いながら家に帰った
家に帰ると見なれない人達と父様が戸口に立ってた
父様が礼をすると見なれない人達も礼をしてから帰っていった
父様が顔を上げると「お帰り」って言ってくれて、僕達は「ただいま帰りました」って返事をした
「お客様でしたの?」母様の質問に母様の荷物を受け取りながら父様が答えた
「あぁ、昔の古いなじみの男達でな。ひさかたぶりに訪ねてきたので皆で色々話していたよ。」
「まぁ、そうですの。」
「あぁ。なつかしくも楽しい時間をすごさせてもらった。」
「それは良かったですこと。」
父様と母様の話を頭の上で聞きながら、僕は笑ってた
だって、もうすぐ…もうすぐだ!
家のなかにあがると何だか甘い、いいにおいがした
かいだ事が無いけれど、とってもいいにおい
その時父様が言った一言は今でも忘れない
「そういえば、茶うけがなかったものでな。とだなにしまってあった菓子を出したよ。」
僕はビックリして父様を見た。母様もビックリして父様を見てた
父様はそんなふうに見られてビックリしたのか、こわごわと言葉を続けた
「し…、しまってあったから悪いとは思ったが茶うけも出さないのは失礼かと思ってな。珍しい菓子だと皆喜んでおったよ。」
僕は心配そうに母様を見た
だって泣いているんじゃないかと思って
そしたら母様にっこり笑って「そうですか」ってそれだけ言った
僕は何が何だか分からなくなった
父様のために『ちよこれいと』を買った母様
それは知らない人に出すためのものじゃない
父様にあげるためだったんだ
母様の気持ちがいっぱい詰まってたんだ
色紙やリボンでキレイに包んで母様の気持ちと一緒に父様が受け取るはずだったのに!
なのに…なのにおかしいじゃないか!!
父様が受け取るはずだった『ちよこれいと』は知らない人が食べちゃって
それを聞いた母様も笑ってる
どうして!? どうして笑ってられるの…!?
「…シュン?」
心配そうな声が聞こえた
どうやら僕は荷物を落としてぼうぜんと立っていたらしい
「父様の…父様のばか!!」
おろおろする父様に大声でそう言うと僕は部屋に駆け込んだ
「シュン!」
「シュン!?」
二人の声が僕を追いかけてきたけど、僕はベッドの下にもぐりこんで頭から布団をかぶった
「シュン、父様に謝りなさい!」
母様が怒ってる。でも謝るもんか!
悪いのは父様、それに笑ってた母様もどうざいだ!!
いつの間にか僕はベッドの下で眠ってしまっていたらしい
お腹はすいたな
なんて思っているとへんてこな形の大きなおにぎりが目に入った
僕の居るところに向かって転がされたのか、それぞれへんてこな場所に転がっていた
こんなへんてこな形のおにぎりは母様が作るわけない
………
『てきからのしお』はいつもならうけないけれど
今回だけはトクベツってことで
僕はそのへんてこな形のおにぎりを食べた
きっと…いつの間にか母様が父様に送る『ちよこれいと』のなかに
いや、『ちよこれいと』だけじゃない。あのキレイなリボンや色紙や
一緒に買いに行ったり、「いつ渡そう?」って母様と笑いあってた時間の中で
僕は僕じしんの気持ちもつめ込んでいたんだと思う
…「父様大好き」って…
だから悲しかった
大好きな父様じゃなくて
知らない人が食べたことが
だからくやしかった
父様に母様と僕の気持ちがとどかなかったことが
気持ちがとどかなかったのに笑ってた母様が
へんてこな形のおにぎりは今までの中で一番しょっぱい味がした